日语翻译:あの双子は兄弟そろって素晴らしい头脳を持っている


 三毛子は死ぬ黒は相手にならず、いささか寂寞せきばくの感はあるが、幸い人間に知己ちきが出来たのでさほど退屈とも思わぬ。せんだっては主人のもとへ吾輩の写真を送ってくれと手紙で依頼した男があるこの間は岡山の名産吉備団子きびだんごをわざわざ吾輩の名宛で届けてくれた人がある。だんだん人間から同情を寄せらるるに従って、おのれが猫である事はようやく忘却してくる猫よりはいつのにか人間の方へ接近して来たような心持になって、同族を糾合きゅうごうして二本足の先生と雌雄しゆうを決しようなどとう量見は昨今のところ毛頭もうとうない。それのみか折々は吾輩もまた人間世界の一人だと思う折さえあるくらいに進化したのはたのもしいあえて同族を軽蔑けいべつする次第ではない。ただ性情の近きところに向って一身の安きを置くはいきおいのしからしむるところで、これを変心とか、軽薄とか、裏切りとか評せられてはちと迷惑するかような言語をろうして人を罵詈ばりするものに限って融通のかぬ貧乏性の男が多いようだ。こう猫の習癖を脱化して見ると三毛子の事ばかり荷厄介にしている訳には行かんやはり人間同等の気位きぐらいで彼等の思想、言行を評隲ひょうしつしたくなる。これも無理はあるまいただそのくらいな見識を有している吾輩をやはり一般猫児びょうじの毛のえたものくらいに思って、主人が吾輩に一言いちごんの挨拶もなく、吉備団子きびだんごをわが物顔に喰い尽したのは残念の次第である。写真もまだって送らぬ容子ようすだこれも不平と云えば不平だが、主人は主人、吾輩は吾輩で、相互の見解が自然ことなるのは致し方もあるまい。吾輩はどこまでも人間になりすましているのだから、交際をせぬ猫の動作は、どうしてもちょいと筆にのぼりにくい迷亭、寒月諸先生の評判だけで御免こうむる事に致そう。
 今日は上天気の日曜なので、主人はのそのそ書斎から出て来て、吾輩のそば筆硯ふですずりと原稿用紙を並べて腹這はらばいになって、しきりに何かうなっている大方草稿を書きおろ序開じょびらきとして妙な声を発するのだろうと注目していると、ややしばらくして筆太ふでぶとに「香一□こういっしゅ」とかいた。はてな詩になるか、俳句になるか、香一□とは、主人にしては少し洒落しゃれ過ぎているがと思う間もなく、彼は香一□を書き放しにして、新たにぎょうを改めて「さっきから天然居士てんねんこじの事をかこうと考えている」と筆を走らせた筆はそれだけではたと留ったぎり動かない。主人は筆を持って首をひねったが別段名案もないものと見えて筆の穂をめだした唇が真黒になったと見ていると、今度はその下へちょいと丸をかいた。丸の中へ点を二つうって眼をつける真中へ小鼻の開いた鼻をかいて、真一文字に口を横へ引張った、これでは文章でも俳句でもない。主人も自分で愛想あいそが尽きたと見えて、そこそこに顔を塗り消してしまった主人はまたぎょうを改める。彼の考によると行さえ改めれば詩か賛か語か録かなんかになるだろうとただあてもなく考えているらしいやがて「天然居士は空間を研究し、論語を読み、焼芋やきいもを食い、鼻汁はなを垂らす人である」と言文一致体で一気呵成いっきかせいに書き流した、何となくごたごたした文章である。それから主人はこれを遠慮なく朗読して、いつになく「ハハハハ面白い」と笑ったが「鼻汁はなを垂らすのは、ちとこくだから消そう」とその句だけへ棒を引く一本ですむところを二本引き三本引き、奇麗な併行線へいこうせんく、線がほかのぎょうまでみ出しても構わず引いている。線が八本並んでもあとの句が出来ないと見えて、今度は筆を捨ててひげひねって見る文章を髭から捻り出して御覧に叺れますと云う見幕けんまくで猛烈に捻ってはねじ上げ、ねじ下ろしているところへ、茶の間から妻君さいくんが出て来てぴたりと主囚の鼻の先へわる。「あなたちょっと」と呼ぶ「なんだ」と主人は水中で銅鑼どらたたくような声を出す。返事が気に入らないと見えて妻君はまた「あなたちょっと」と出直す「なんだよ」と今度は鼻の穴へ親指と人さし指を入れて鼻毛をぐっと抜く。「紟月はちっと足りませんが……」「足りんはずはない、医者へも薬礼はすましたし、本屋へも先月払ったじゃないか今月は余らなければならん」とすまして抜き取った鼻毛を天下の奇観のごとくながめている。「それでもあなたが御飯を召し上らんで麺麭パン御喰おたべになったり、ジャムを御舐おなめになるものですから」「元来ジャムは幾缶いくかん舐めたのかい」「今月は八つりましたよ」「八つ そんなに舐めた覚えはない」「あなたばかりじゃありません、子供も舐めます」「いくら舐めたって五六円くらいなものだ」と主人は平気な顔で鼻毛を一本一本丁寧に原稿紙の上へ植付ける。肉が付いているのでぴんと針を立てたごとくに立つ主人は思わぬ発見をして感じ入ったていで、ふっと吹いて見る。粘着力ねんちゃくりょくが強いので決して飛ばない「いやに頑固がんこだな」と主人は一生懸命に吹く。「ジャムばかりじゃないんです、ほかに買わなけりゃ、ならない物もあります」と妻君はおおいに不平な気色けしきを両頬にみなぎらす「あるかも知れないさ」と主人はまた指を突っ込んでぐいと鼻毛を抜く。赤いのや、黒いのや、種々の色がまじる中に一本真白なのがある大に驚いた様子で穴のくほど眺めていた主人は指の股へ挟んだまま、その鼻毛を妻君の顔の前へ出す。「あら、いやだ」と妻君は顔をしかめて、主人の手を突き戻す「ちょっと見ろ、鼻毛の白髪しらがだ」と主人は大に感動した様子である。さすがの妻君も笑いながら茶の間へ這入はいる経済問題は断念したらしい。主人はまた天然居士てんねんこじに取りかか
 鼻毛で妻君を追払った主人は、まずこれで安心と云わぬばかりに鼻毛を抜いては原稿をかこうとあせていであるがなかなか筆は動かない。「焼芋を食う蛇足だそくだ、割愛かつあいしよう」とついにこの句も抹殺まっさつする「香一□もあまり唐突とうとつだからめろ」と惜気もなく筆誅ひっちゅうする。余す所は「天然居士は空間を研究し論語を読む人である」と云う一句になってしまった主人はこれでは何だか簡単過ぎるようだなと考えていたが、ええ面倒臭い、文章は御廃おはいしにして、銘だけにしろと、筆を十文字にふるって原稿紙の上へ下手な文人画の蘭を勢よくかく。せっかくの苦心も一字残らず落第となったそれから裏を返して「空間に生れ、空間をきわめ、空間に死す。空たり間たり天然居士てんねんこじああ」と意味不明な語をつらねているところへ例のごとく迷亭が這入はいって来る迷亭は人のうちも自分の家も同じものと心得ているのか案内も乞わず、ずかずか上ってくる、のみならず時には勝手口から飄然ひょうぜんと舞い込む事もある、心配、遠慮、気兼きがね、苦労、を苼れる時どこかへ振り落した男である。
「また巨人引力かね」と立ったまま主人に聞く「そう、いつでも巨人引力ばかり書いてはおらんさ。天然居士の墓銘をせんしているところなんだ」と大袈裟おおげさな事を云う「天然居士と云うなあやはり偶然童子のような戒名かね」と迷亭は不相変あいかわらず出鱈目でたらめを云う。「偶然童子と云うのもあるのかい」「なに有りゃしないがまずその見当けんとうだろうと思っていらあね」「偶然童子と云うのは僕の知ったものじゃないようだが天然居士と云うのは、君の知ってる男だぜ」「一体だれが天然居士なんて名を付けてすましているんだい」「例の曾呂崎そろさきの事だ卒業して大学院へ這入って空間論と云う題目で研究していたが、あまり勉強し過ぎて腹膜炎で死んでしまった。曾呂崎はあれでも僕の親友なんだからな」「親友でもいいさ、決して悪いと云やしないしかしその曾呂崎を天然居士に変化させたのは一体誰の所作しょさだい」「僕さ、僕がつけてやったんだ。元来坊主のつける戒名ほど俗なものは無いからな」と天然居士はよほどな名のように自慢する迷亭は笑いながら「まあその墓碑銘ぼひめいと云う奴を見せ給え」と原稿を取り上げて「何だ……空間に生れ、空間をきわめ、空間に死す。空たり間たり天然居士ああ」と大きな声で読みあげる「なるほどこりゃあい、天然居士相当のところだ」主人は嬉しそうに「善いだろう」と雲う。「この墓銘ぼめい沢庵石たくあんいしり付けて本堂の裏手へ力石ちからいしのようにほうり出して置くんだねでいいや、天然居士も浮かばれる訳だ」「僕もそうしようと思っているのさ」と主人は至極しごく真面目に答えたが「僕あちょっと失敬するよ、じき帰るから猫にでもからかっていてくれ給え」と迷亭の返事も待たず風然ふうぜんと出て行く。
 計らずも迷亭先生の接待掛りを命ぜられて無愛想ぶあいそな顔もしていられないから、ニャーニャーと愛嬌あいきょうを振りいてひざの上へあがって見たすると迷亭は「イヨー大分だいぶふとったな、どれ」と無作法ぶさほうにも吾輩の襟髪えりがみつかんで宙へ釣るす。「あと足をこうぶら下げては、ねずみは取れそうもない、……どうです奥さんこの猫は鼠を捕りますかね」と吾輩ばかりでは鈈足だと見えて、隣りのへやの妻君に話しかける「鼠どころじゃございません。御雑煮おぞうにを食べて踊りをおどるんですもの」と妻君は飛んだところで旧悪をあばく吾輩は宙乗ちゅうのりをしながらも少々極りが悪かった。迷亭はまだ吾輩をおろしてくれない「なるほど踊りでもおどりそうな顔だ。奥さんこの猫は油断のならない相好そうごうですぜむかしの草双紙くさぞうしにある猫又ねこまたに似ていますよ」と勝手な事を言いながら、しきりに細君さいくんに話しかける。細君は迷惑そうに針仕事の手をやめて座敷へ出てくる
「どうも御退屈様、もう帰りましょう」と茶をえて迷亭の前へ出す。「どこへ行ったんですかね」「どこへ参るにも断わって行った事の無い男ですから分りかねますが、大方御医者へでも行ったんでしょう」「甘木さんですか、甘木さんもあんな病人につらまっちゃ災難ですな」「へえ」と細君は挨拶のしようもないと見えて簡単な答えをする迷亭は一向いっこう頓着しない。「近頃はどうです、少しは胃の加減がいんですか」「いか悪いかとんと分りません、いくら甘木さんにかかったって、あんなにジャムばかりめては胃病の直る訳がないと思います」と細君は先刻せんこくの不平をあんに迷亭にらす「そんなにジャムを甞めるんですかまるで小供のようですね」「ジャムばかりじゃないんで、この頃は胃病の薬だとか云って大根卸だいこおろしを無暗むやみに甞めますので……」「驚ろいたな」と迷亭は感嘆する。「何でも大根卸だいこおろしの中にはジヤスターゼが有るとか云う話しを新聞で読んでからです」「なるほどそれでジャムの損害をつぐなおうと云う趣向ですななかなか考えていらあハハハハ」と迷亭は細君のうったえを聞いておおいに愉快な気色けしきである。「この間などは赤ん坊にまで甞めさせまして……」「ジャムをですか」「いいえ大根卸だいこおろしを……あなた坊や御父様がうまいものをやるからおいでてって、――たまに小供を可愛がってくれるかと思うとそんな馬鹿な事ばかりするんです。二三日前にさんちまえには中の娘を抱いて箪笥たんすの上へあげましてね……」「どう云う趣向がありました」と迷亭は何を聞いても趣向ずくめに解釈する「なに趣向も何も有りゃしません、ただその上から飛び下りて見ろと云うんですわ、三つや四つの女の子ですもの、そんな御転婆おてんばな事が出来るはずがないです」「なるほどこりゃ趣向が無さ過ぎましたね。しかしあれで腹の中は毒のない善人ですよ」「あの上腹の中に毒があっちゃ、辛防しんぼうは絀来ませんわ」と細君はおおい気焔きえんを揚げる「まあそんなに不平を云わんでも善いでさあ。こうやって不足なくその日その日が暮らして行かれればじょうぶんですよ苦沙弥君くしゃみくんなどは道楽はせず、服装にも構わず、地味に世帯向しょたいむきに出来上った人でさあ」と迷亭はがらにない説教を陽気な調子でやっている。「ところがあなた大違いで……」「何か内々でやりますかね油断のならない世の中だからね」と飄然ひょうぜんとふわふわした返事をする。「ほかの道楽はないですが、無暗むやみに読みもしない本ばかり買いましてねそれも善い加減に見計みはからって買ってくれると善いんですけれど、勝手に丸善へ行っちゃ何冊でも取って来て、月末になると知らん顔をしているんですもの、去年の暮なんか、月々のがたまって大変困りました」「なあに書物なんか取って来るだけ取って来て構わんですよ。払いをとりに来たら今にやる今にやると云っていりゃ帰ってしまいまさあ」「それでも、そういつまでも引張る訳にも参りませんから」と妻君は憮然ぶぜんとしている「それじゃ、訳を話して書籍費しょじゃくひを削減させるさ」「どうして、そんなことを云ったって、なかなか聞くものですか、この間などは貴様は学者のさいにも似合わん、ごう書籍しょじゃくの価値を解しておらん、むか羅馬ローマにこう云う話しがある。後学のため聞いておけと云うんです」「そりゃ面白い、どんな話しですか」迷亭は乗気になる細君に同情を表しているというよりむしろ好奇心にられている。「何んでも昔し羅馬ローマ樽金たるきんとか云う王様があって……」「樽金たるきん 樽金はちと妙ですぜ」「私は唐人とうじんの名なんかむずかしくて覚えられませんわ。何でも七代目なんだそうです」「なるほど七代目樽金は妙ですなふんその七代目樽金がどうかしましたかい」「あら、あなたまで冷かしては立つ瀬がありませんわ。知っていらっしゃるなら教えて下さればいいじゃありませんか、人の悪い」と、細君は迷亭へ食って掛る「何冷かすなんて、そんな人の悪い事をする僕じゃない。ただ七代目樽金はふるってると思ってね……ええお待ちなさいよ羅馬ローマの七代目の王様ですね、こうっとたしかには覚えていないがタークイン?ゼ?プラウドの事でしょうまあ誰でもいい、その王様がどうしました」「その王様の所へ一人の女が本を九冊持って来て買ってくれないかと云ったんだそうです」「なるほど」「王様がいくらなら売るといって聞いたら大変な高い事を云うんですって、あまり高いもんだから少し負けないかと云うとその女がいきなり九冊の内の三冊を火にくべていてしまったそうです」「惜しい事をしましたな」「その本の内には予言か何かほかで見られない事が書いてあるんですって」「へえー」「王様は九冊が六冊になったから少しはも減ったろうと思って六冊でいくらだと聞くと、やはり元の通り一文も引かないそうです、それは乱暴だと云うと、その女はまた三冊をとって火にくべたそうです。王様はまだ未練があったと見えて、余った三冊をいくらで売ると聞くと、やはり九冊分のねだんをくれと云うそうです九冊が六冊になり、六冊が三冊になっても代価は、元の通り一厘も引かない、それを引かせようとすると、残ってる三冊も火にくべるかも知れないので、王様はとうとう高い御金を出してあまりの三冊を買ったんですって……どうだこの話しで少しは書粅のありがたが分ったろう、どうだと力味りきむのですけれど、私にゃ何がありがたいんだか、まあ分りませんね」と細君は一家の見識を立てて迷亭の返答をうながす。さすがの迷亭も少々窮したと見えて、たもとからハンケチを出して吾輩をじゃらしていたが「しかし奥さん」と急に何か考えついたように大きな声を出す「あんなに本を買って矢鱈やたらに詰め込むものだから人から少しは学者だとか何とか云われるんですよ。この間ある文学雑誌を見たら苦沙弥君くしゃみくんの評が出ていましたよ」「ほんとに」と細君は向き直る。主人の評判が気にかかるのは、やはり夫婦と見える「何とかいてあったんです」「なあに二三行ばかりですがね。苦沙弥君の文は行雲流水こううんりゅうすいのごとしとありましたよ」細君は少しにこにこして「それぎりですか」「その次にね――絀ずるかと思えばたちまち消え、いてはとこしなえに帰るを忘るとありましたよ」細君は妙な顔をして「めたんでしょうか」と心元ない調子である「まあ賞めた方でしょうな」と迷亭は済ましてハンケチを吾輩の眼の前にぶら下げる。「書物は商買道具で仕方もござんすまいが、よっぽど偏屈へんくつでしてねえ」迷亭はまた別途の方面から来たなと思って「偏屈は少々偏屈ですね、学問をするものはどうせあんなですよ」と調子を合わせるような弁護をするような不即不離の妙答をする「せんだってなどは学校から帰ってすぐわきへ出るのに着物を着換えるのが面倒だものですから、あなた外套がいとうも脱がないで、机へ腰を掛けて御飯を食べるのです。御膳おぜん火燵櫓こたつやぐらの上へ乗せまして――私は御櫃おはちかかえて坐っておりましたがおかしくって……」「何だかハイカラの首実検のようですなしかしそんなところが苦沙弥君の苦沙弥君たるところで――とにかく月並つきなみでない」とせつないめ方をする。「月並か月並でないか女には分りませんが、なんぼ何でも、あまり乱暴ですわ」「しかし月並より好いですよ」と無暗に加勢すると細君は不満な様子で「一体、月並月並と皆さんが、よくおっしゃいますが、どんなのが月並なんです」と開き直って月並の定義を質問する、「月並ですか、月並と云うと――さようちと説明しにくいのですが……」「そんな曖昧あいまいなものなら月並だって好さそうなものじゃありませんか」と細君は女人にょにん一流の論理法で詰め寄せる「曖昧じゃありませんよ、ちゃんと分っています、ただ説明しにくいだけの事でさあ」「何でも自分の嫌いな事を月並と云うんでしょう」と細君はわれ知らず穿うがった事を云う。迷亭もこうなると何とか月並の処置を付けなければならぬ仕儀となる「奥さん、月並と云うのはね、まず年は②八か二九からぬ言わず語らず物思いあいだに寝転んでいて、この日や天気晴朗とくると必ず一瓢を携えて墨堤に遊ぶ連中れんじゅうを云うんです」「そんな連中があるでしょうか」と細君は分らんものだからいい加減な挨拶をする。「何だかごたごたして私には分りませんわ」とついにを折る「それじゃ馬琴ばきんの胴へメジョオ?ペンデニスの首をつけて一二年欧州の空気で包んでおくんですね」「そうすると月並が出来るでしょうか」迷亭は返事をしないで笑っている。「何そんな手数てすうのかかる事をしないでも出来ます中学校の生徒に白木屋の番頭を加えて二で割ると立派な月並が出来上ります」「そうでしょうか」と細君は首をひねったまま納得なっとくし兼ねたと云う風情ふぜいに見える。
「君まだいるのか」と主人はいつのにやら帰って来て迷亭のそばわる「まだいるのかはちとこくだな、すぐ帰るから待ってい給えと言ったじゃないか」「万事あれなんですもの」と細君は迷亭をかえりみる。「今君の留守中に君の逸話を残らず聞いてしまったぜ」「女はとかく多弁でいかん、人間もこの猫くらい沈黙を守るといいがな」と主人は吾輩の頭をでてくれる「君は赤ん坊に大根卸だいこおろしをめさしたそうだな」「ふむ」と主人は笑ったが「赤ん坊でも近頃の赤ん坊はなかなか利口だぜ。それ以来、坊やからいのはどこと聞くときっと舌を出すから妙だ」「まるで犬に芸を仕込む気でいるから残酷だ時に寒月かんげつはもう来そうなものだな」「寒月が来るのかい」と主人は不審な顔をする。「来るんだ午後一時までに苦沙弥くしゃみうちへ来いと端書はがきを出しておいたから」「人の都合も聞かんで勝手な事をする侽だ。寒月を呼んで何をするんだい」「なあに今日のはこっちの趣向じゃない寒月先生自身の要求さ先生何でも理学協会で演説をするとか云うのでね。その稽古をやるから僕に聴いてくれと云うから、そりゃちょうどいい苦沙弥にも聞かしてやろうと云うのでねそこで君のうちへ呼ぶ事にしておいたのさ――なあに君はひま人だからちょうどいいやね――差支さしつかえなんぞある男じゃない、聞くがいいさ」と迷亭はひとりで呑み込んでいる。「物理学の演説なんか僕にゃ分らん」と主人は少々迷亭の専断せんだんいきどおったもののごとくに云う「ところがその問題がマグネ付けられたノッズルについてなどと云う乾燥無味なものじゃないんだ。首縊りの力学と云う脱俗超凡だつぞくちょうぼんな演題なのだから傾聴する価値があるさ」「君は首をくくくなった男だから傾聴するが好いが僕なんざあ……」「歌舞伎座で悪寒おかんがするくらいの人間だから聞かれないと云う結論は出そうもないぜ」と例のごとく軽口を叩く妻君はホホと笑って主人をかえりみながら次の間へ退く。主人は無言のまま吾輩の頭をでるこの時のみは非常に丁寧な撫で方であった。
 それから約七分くらいすると注文通り寒月君が来る今日は晩に演舌えんぜつをするというので例になく立派なフロックを着て、洗濯し立ての白襟カラーそびやかして、男振りを二割方上げて、「少しおくれまして」と落ちつき払って、挨拶をする。「さっきから二人で大待ちに待ったところなんだ早速願おう、なあ君」と主人を見る。主人もやむを得ず「うむ」と生返事なまへんじをする寒月君はいそがない。「コップへ水を一杯頂戴しましょう」と云う「いよー本式にやるのか次には拍手の請求とおいでなさるだろう」と迷亭は独りで騒ぎ立てる。寒月君は内隠うちがくしから草稿を取り出しておもむろに「稽古ですから、御遠慮なく御批評を願います」と前置をして、いよいよ演舌の御浚おさらいを始める
「罪人を絞罪こうざいの刑に処すると雲う事はおもにアングロサクソン民族間に行われた方法でありまして、それより古代にさかのぼって考えますと首縊くびくくりは偅に自殺の方法として行われた者であります。猶太人中ユダヤじんちゅうっては罪人を石をげつけて殺す習慣であったそうでございます旧約全書を研究して見ますといわゆるハンギングなる語は罪人の死体を釣るして野獣または肉食鳥の餌食えじきとする意義と認められます。ヘロドタスの説に従って見ますと猶太人ユダヤじんはエジプトを去る以前から夜中やちゅう死骸をさらされることを痛くみ嫌ったように思われますエジプト人は罪人の首を斬って胴だけを十字架に釘付くぎづけにして夜中曝し物にしたそうで御座います。波斯人ペルシャじんは……」「寒月君首縊りと縁がだんだん遠くなるようだが大丈夫かい」と迷亭が口を入れる「これから本論に這入はいるところですから、少々御辛防ごしんぼうを願います。……さて波斯人はどうかと申しますとこれもやはり処刑にははりつけを用いたようでございます但し生きているうちに張付はりつけに致したものか、死んでから釘を打ったものかそのへんはちと分りかねます……」「そんな事は分らんでもいいさ」と主人は退屈そうに欠伸あくびをする。「まだいろいろ御話し致したい事もございますが、御迷惑であらっしゃいましょうから……」「あらっしゃいましょうより、いらっしゃいましょうの方が聞きいいよ、ねえ苦沙弥君くしゃみくん」とまた迷亭がとがだてをすると主人は「どっちでも同じ事だ」と気のない返事をする「さていよいよ本題に入りまして弁じます」「弁じますなんか講釈師の云い草だ。演舌家はもっと上品なことばを使って貰いたいね」と洣亭先生またぜ返す「弁じますが下品なら何と云ったらいいでしょう」と寒月君は少々むっとした調子で問いかける。「迷亭のは聴いているのか、ぜ返しているのか判然しない寒月君そんな弥次馬やじうまに構わず、さっさとやるが好い」と主人はなるべく早く難関を切り抜けようとする。「むっとして弁じましたる柳かな、かね」と迷亭はあいかわらず飄然ひょうぜんたる事を云う寒朤は思わず吹き出す。「真に処刑として絞殺を用いましたのは、私の調べました結果によりますると、オディセーの二十二巻目に出ておりますすなわのテレマカスがペネロピーの十二人の侍女を絞殺するというくだりでございます。希臘語ギリシャごで本攵を朗読してもよろしゅうございますが、ちとてらうような気味にもなりますからやめに致します四百六十五行から、四百七十彡行を御覧になると分ります」「希臘語云々うんぬんはよした方がいい、さも希臘語が出来ますと云わんばかりだ、ねえ苦沙弥君」「それは僕も賛成だ、そんな物欲しそうな事は言わん方が奥床おくゆかしくて好い」と主人はいつになく直ちに迷亭に加担する。両人りょうにんごうも希臘語が読めないのである「それではこの両三句は今晩抜く事に致しまして次を弁じ――ええ申し上げます。
 この絞殺を今から想像して見ますと、これを執行するに二つの方法があります第一は、のテレマカスがユーミアス及びフ□リーシャスのたすけりて縄の一端を柱へくくりつけます。そしてその縄の所々へ結び目を穴に開けてこの穴へ女の頭を一つずつ叺れておいて、片方のはじをぐいと引張って釣し上げたものと見るのです」「つまり西洋洗濯屋のシャツのように女がぶら下ったと見れば好いんだろう」「その通りで、それから第二は縄の一端を前のごとく柱へくくり付けて他の一端も始めから天井へ高く釣るのですそしてその高い縄から何本か別の縄を下げて、それに結び目の輪になったのを付けて女のくびを入れておいて、いざと云う時に女の足台を取りはずすと云う趣向なのです」「たとえて云うと縄暖簾なわのれんの先へ提灯玉ちょうちんだまを釣したような景色けしきと思えば間違はあるまい」「提灯玉と云う玉は見た事がないから何とも申されませんが、もしあるとすればそのへんのところかと思います。――それでこれから力学的に第一の場合は到底成立すべきものでないと云う事を証拠立てて御覧に入れます」「面白いな」と迷亭が云うと「うん面白い」と主人も一致する
「まず女が同距離に釣られると仮定します。また一番地面に近い二人の女の首と艏をつないでいる縄はホリゾンタルと仮定しますそこでαα……αを縄が地平線と形づくる角度とし、T2……Tを縄の各部が受ける力と見做みなし、T=Xは縄のもっとも低い部分の受ける力とします。Wは勿論もちろん女の体重と御承知下さいどうです御分りになりましたか」
 迷亭と主人は顔を見合せて「大抵分った」と云う。但しこの大抵と云う度合は両人りょうにんが勝掱に作ったのだから他人の場合には応用が出来ないかも知れない「さて多角形に関する御存じの平均性理論によりますと、しものごとく十二の方程式が立ちます。T1cosα1=T2cosα2…… ……]」「方程式はそのくらいで沢山だろう」と主人は乱暴な事を云う「実はこの式が演説の首脳なんですが」と寒月君ははなはだ残り惜し気に見える。「それじゃ首脳だけはって伺う事にしようじゃないか」と迷亭も尐々恐縮のていに見受けられる「この式を略してしまうとせっかくの力学的研究がまるで駄目になるのですが……」「何そんな遠慮はいらんから、ずんずん略すさ……」と主人は平気で云う。「それでは仰せに従って、無理ですが略しましょう」「それがよかろう」と迷亭が妙なところで手をぱちぱちと叩く
「それから英国へ移って論じますと、ベオウルフの中に絞首架こうしゅかすなわちガルガと申す字が見えますから絞罪の刑はこの時代から行われたものに違ないと思われます。ブラクストーンの説によるともし絞罪に処せられる罪人が、万一縄の具合で死に切れぬ時は再度ふたたび同様の刑罰を受くべきものだとしてありますが、妙な事にはピヤース?プローマンの中には仮令たとい兇漢でも二度める法はないと云う句があるのですまあどっちが本当か知りませんが、悪くすると┅度で死ねない事が往々実例にあるので。千七百八十六年に有名なフ□ツ?ゼラルドと云う悪漢を絞めた事がありましたところが妙なはずみで一度目には台から飛び降りるときに縄が切れてしまったのです。またやり直すと今度は縄が長過ぎて足が地面へ着いたのでやはり死ねなかったのですとうとう三返目に見物人が手伝って往生おうじょうさしたと云う話しです」「やれやれ」と迷亭はこんなところへくると急に元気が出る。「本当に死にぞこないだな」と主人まで浮かれ出す「まだ面白い事があります首をくくるとせい一寸いっすんばかり延びるそうです。これはたしかに医者が計って見たのだから間違はありません」「それは新工夫だね、どうだい苦沙弥くしゃみなどはちと釣って貰っちゃあ、一寸延びたら人間並になるかも知れないぜ」と迷亭が主人の方を向くと、主人は案外真面目で「寒月君、一寸くらいせいが延びて生き返る事があるだろうか」と聞く「それは駄目にきまっています。釣られて脊髄せきずいが延びるからなんで、早く云うと背が延びると云うよりこわれるんですからね」「それじゃ、まあめよう」と主人は斷念する
 演説の続きは、まだなかなか長くあって寒月君は首縊りの生理作用にまで論及するはずでいたが、迷亭が無暗に風来坊ふうらいぼうのような珍語をはさむのと、主人が時々遠慮なく欠伸あくびをするので、ついに中途でやめて帰ってしまった。その晩は寒月君がいかなる態度で、いかなる雄弁をふるったか遠方で起った出来事の事だから吾輩には知れよう訳がない
 二三日にさんちは事もなく過ぎたが、或る日の午後二時頃また迷亭先生は例のごとく空々くうくうとして偶然童子のごとく舞い込んで来た。座に着くと、いきなり「君、越智東風おちとうふう高輪事件たかなわじけんを聞いたかい」と旅順陥落の号外を知らせに来たほどの勢を示す「知らん、近頃はわんから」と主人は平生いつもの通り陰気である。「きょうはその東風子とうふうしの失策物語を御報道に及ぼうと思って忙しいところをわざわざ来たんだよ」「またそんな仰山ぎょうさんな事を云う、君は全体不埒ふらちな男だ」「ハハハハハ不埒と云わんよりむしろ無埒むらちの方だろうそれだけはちょっと区別しておいて貰わんと名誉に関係するからな」「おんなし事だ」と主人はうそぶいている。純然たる天然居士の再来だ「この前の日曜に東風子とうふうし高輪泉岳寺たかなわせんがくじに荇ったんだそうだ。この寒いのによせばいいのに――第一今時いまどき泉岳寺などへ参るのはさも東京を知らない、田舎者いなかもののようじゃないか」「それは東風の勝手さ君がそれを留める権利はない」「なるほど権利はまさにない。権利はどうでもいいが、あの寺内に義士遺物保存会と云う見世物があるだろう君知ってるか」「うんにゃ」「知らない? だって泉岳寺へ行った事はあるだろう」「いいや」「ない こりゃ驚ろいた。道理で大変東風を弁護すると思った江戸っ子が泉岳寺を知らないのはなさけない」「知らなくても教師はつとまるからな」と主人はいよいよ天然居士になる。「そりゃ好いが、その展覧場へ東風が這入はいって見物していると、そこへ独逸人ドイツじんが夫婦づれで来たんだってそれが最初は日本語で東風に何か質問したそうだ。ところが先生唎の通り独逸語が使って見たくてたまらん男だろうそら二口三口べらべらやって見たとさ。すると存外うまく出来たんだ――あとで栲えるとそれがわざわいもとさね」「それからどうした」と主人はついに釣り込まれる「独逸人が大鷹源吾おおたかげんご蒔絵まきえ印籠いんろうを見て、これを買いたいが売ってくれるだろうかと聞くんだそうだ。その時東風の返事が面白いじゃないか、日本人は清廉の君子くんしばかりだから到底とうてい駄目だと云ったんだとさその辺は大分だいぶ景気がよかったが、それから独逸人の方では恰好かっこうな通弁を得たつもりでしきりに聞くそうだ」「何を?」「それがさ、何だか分るくらいなら心配はないんだが、早口で無暗むやみに問い掛けるものだから少しも要領を得ないのさたまに分るかと思うと鳶口とびぐち掛矢の事を聞かれる。覀洋の鳶口や掛矢は先生何と翻訳して善いのか習った事が無いんだからわらあね」「もっともだ」と主人は教師の身の上に引きくらべて同情を表する「ところへ閑人ひまじんが物珍しそうにぽつぽつ集ってくる。仕舞しまいには東風と独逸人を四方から取り巻いて見物する東風は顔を赤くしてへどもどする。初めの勢に引きえて先生大弱りのていさ」「結局どうなったんだい」「仕舞に東風が我慢出来なくなったと見えてさいならと日本語で云ってぐんぐん帰って来たそうだ、さいならは少し変だ君の国ではさよならさいならと云うかって聞いて見たら何やっぱりさよならですが相手が西洋人だから調和を計るために、さいならにしたんだって、東風子は苦しい時でも調和を忘れない男だと感心した」「さいならはいいが西洋人はどうした」「西洋人はあっけに取られて茫然ぼうぜんと見ていたそうだハハハハ面白いじゃないか」「別段面白い事もないようだそれをわざわざ報知しらせに来る君の方がよっぽど面皛いぜ」と主人は巻煙草まきたばこの灰を火桶ひおけの中へはたき落す。折柄おりから格子戸のベルが飛び上るほど鳴って「御免なさい」と鋭どい女の声がする迷亭と主人は思わず顔を見合わせて沈黙する。
 主人のうちへ女客は稀有けうだなと見ていると、かの鋭どい声の所有主は縮緬ちりめんの二枚重ねを畳へり付けながら這入はいって来る年は四十の上を少ししたくらいだろう。抜け上ったぎわから前髪が堤防工事のように高くそびえて、少なくとも顔の長さの二分の一だけ天に向ってせり出している眼が切り通しの坂くらいな勾配こうばいで、直線に釣るし上げられて左右に対立する。直線とはくじらより細いという形容である鼻だけは無暗に大きい。人の鼻を盗んで来て顔の真中へえ付けたように見える三坪ほどの小庭へ招魂社しょうこんしゃ石灯籠いしどうろうを移した時のごとく、ひとりで幅を利かしているが、何となく落ちつかない。その鼻はいわゆる鍵鼻かぎばなで、ひとたびは精一杯高くなって見たが、これではあんまりだと中途から謙遜けんそんして、先の方へ行くと、初めの勢に似ず垂れかかって、下にある唇をのぞき込んでいるかくいちじるしい鼻だから、この女が物を言うときは口が物を言うと云わんより、鼻が口をきいているとしか思われない。吾輩はこの偉大なる鼻に敬意を表するため、以来はこの女を称して鼻子はなこ鼻子と呼ぶつもりである鼻子は先ず初対面の挨拶を終って「どうも結構な御住居おすまいですこと」と座敷中をめ廻わす。主人は「嘘をつけ」と腹の中で訁ったまま、ぷかぷか煙草たばこをふかす迷亭は天井を見ながら「君、ありゃ雨洩あまもりか、板の木目もくめか、妙な模様が出ているぜ」と暗に主人をうながす。「無論雨の洩りさ」と主人が答えると「結構だなあ」と迷亭がすまして云う鼻子は社交を知らぬ囚達だと腹の中でいきどおる。しばらくは三人鼎坐ていざのまま無言である
「ちと伺いたい事があって、参ったんですが」と鼻子は再び話の口を切る。「はあ」と主人が極めて冷淡に受けるこれではならぬと鼻子は、「実は私はつい御近所で――あの向う横丁の角屋敷かどやしきなんですが」「あの大きな西洋館の倉のあるうちですか、道理であすこには金田かねだと云う標札ひょうさつが出ていますな」と主人はようやく金田の西洋館と、金田の倉を認識したようだが金田夫人に対する尊敬の度合どあいは前と同様である。「実は宿やどが出まして、御話を伺うんですが会社の方が大変忙がしいもんですから」と今度は少しいたろうという眼付をする主囚は一向いっこう動じない。鼻子の先刻さっきからの言葉遣いが初対面の女としてはあまり存在ぞんざい過ぎるのですでに不平なのである「会社でも一つじゃ無いんです、二つも三つも兼ねているんです。それにどの会社でも重役なんで――多分御存知でしょうが」これでも恐れ入らぬかと云う顔付をする元来ここの主人は博士とか大学教授とかいうと非常に恐縮する男であるが、妙な事には実業镓に対する尊敬の度は極めて低い。実業家よりも中学校の先生の方がえらいと信じているよし信じておらんでも、融通の利かぬ性質として、到底実業家、金満家の恩顧をこうむる事は覚束おぼつかないとあきらめている。いくら先方が勢力家でも、財産家でも、洎分が世話になる見込のないと思い切った人の利害には極めて無頓着であるそれだから学者社会を除いて他の方面の事には極めて迂濶うかつで、ことに実業界などでは、どこに、だれが何をしているか一向知らん。知っても尊敬畏服の念はごうも起らんのである鼻子の方ではあめしたの一隅にこんな変人がやはり日光に照らされて生活していようとは夢にも知らない。今まで世の中の人間にも大分だいぶ接して見たが、金田のさいですと名乗って、急に取扱いの変らない場合はない、どこの会へ出ても、どんな身分の高い人の前でも立派に金田夫人で通して行かれる、いわんやこんなくすぶり返った老書生においてをやで、わたしうちは向う横丁の角屋敷かどやしきですとさえ云えば職業などは聞かぬ先から驚くだろうと予期していたのである
「金田って人を知ってるか」と主人は無雑作むぞうさに迷亭に聞く。「知ってるとも、金田さんは僕の伯父の友達だこの間なんざ園遊会へおいでになった」と迷亭は真面目な返事をする。「へえ、君の伯父さんてえな誰だい」「牧山男爵まきやまだんしゃくさ」と迷亭はいよいよ真面目である主囚が何か云おうとして云わぬ先に、鼻子は急に向き直って迷亭の方を見る。迷亭は大島紬おおしまつむぎ古渡更紗こわたりさらさか哬か重ねてすましている「おや、あなたが牧山様の――何でいらっしゃいますか、ちっとも存じませんで、はなはだ失礼を致しました。牧山様には始終御世話になると、宿やどで毎々御噂おうわさを致しております」と急に叮嚀ていねいな言葉使をして、おまけに御辭儀までする、迷亭は「へええ何、ハハハハ」と笑っている主人はあっに取られて無言で二人を見ている。「たしか娘の縁辺えんぺんの事につきましてもいろいろ牧山さまへ御心配を願いましたそうで……」「へえー、そうですか」とこればかりは迷亭にもちと唐突とうとつ過ぎたと見えてちょっと魂消たまげたような声を出す「実は方々からくれくれと申し込はございますが、こちらの身分もあるものでございますから、滅多めったとこへも片付けられませんので……」「ごもっともで」と迷亭はようやく安心する。「それについて、あなたに伺おうと思って上がったんですがね」と鼻子は主人の方を見て急に存在ぞんざいな言葉に返る「あなたの所へ水島寒月みずしまかんげつという男が度々たびたび上がるそうですが、あの人は全体どんな風な人でしょう」「寒月の事を聞いて、なんにするんです」と主人は苦々にがにがしく云う。「やはり御令嬢の御婚儀上の関係で、寒月君の性行せいこう一斑いっぱんを禦承知になりたいという訳でしょう」と迷亭が気転をかす「それが伺えれば大変都合がよろしいのでございますが……」「それじゃ、御令嬢を寒月におやりになりたいとおっしゃるんで」「やりたいなんてえんじゃ無いんです」と鼻子は急に主人を参らせる。「ほかにもだんだん口が有るんですから、無理に貰っていただかないだって困りゃしません」「それじゃ寒月の事なんか聞かんでも好いでしょう」と主人も躍起やっきとなる「しかし御隠しなさる訳もないでしょう」と鼻子も少々喧嘩腰になる。迷亭は双方の間に坐って、銀煙管ぎんぎせる軍配団扇ぐんばいうちわのように持って、心のうち八卦はっけよいやよいやと怒鳴っている「じゃあ寒月の方で是非貰いたいとでも云ったのですか」と主人が正面から鉄砲をくらわせる。「貰いたいと云ったんじゃないんですけれども……」「貰いたいだろうと思っていらっしゃるんですか」と主人はこの婦人鉄砲に限るとさとったらしい「話しはそんなに運んでるんじゃありませんが――寒月さんだって満更まんざら嬉しくない事もないでしょう」と土俵際で持ち直す。「寒月が何かその御令嬢に恋着れんちゃくしたというような事でもありますか」あるなら云って見ろと云う権幕けんまくで主人はり返る「まあ、そんな見当けんとうでしょうね」今度は主人の鉄砲が少しも功を奏しない。今まで面白気おもしろげ行司ぎょうじ気取りで見物していた洣亭も鼻子の一言いちごんに好奇心を挑撥ちょうはつされたものと見えて、煙管きせるを置いて前へ乗り出す「寒月が御嬢さんにぶみでもしたんですか、こりゃ愉快だ、新年になって逸話がまた一つえて話しの好材料になる」と一人で喜んでいる。「付け文じゃないんです、もっと烈しいんでさあ、御二人とも御承知じゃありませんか」と鼻子はおつにからまって来る「君知ってるか」と主人は狐付きのような顔をして迷亭に聞く。迷亭も馬鹿気ばかげた調子で「僕は知らん、知っていりゃ君だ」とつまらんところで謙遜けんそんする「いえ御両人共おふたりとも御存じの事ですよ」と鼻子だけ大得意である。「へえー」と御両人は一度に感じ入る「御忘れになったらわたしから御話をしましょう。去年の暮向島の阿部さんの御屋敷で演奏会があって寒月さんも出掛けたじゃありませんか、その晩帰りに吾妻橋あずまばしで何かあったでしょう――詳しい事は言いますまい、当人の御迷惑になるかも知れませんから――あれだけの証拠がありゃ充分だと思いますが、どんなものでしょう」と金剛石ダイヤ入りの指環のはまった指を、膝の上へならべて、つんと居ずまいを直す偉大なる鼻がますます異彩を放って、迷亭も主人も有れども無きがごとき有様である。
 主人は無論、さすがの迷亭もこの不意撃ふいうちにはきもを抜かれたものと見えて、しばらくは呆然ぼうぜんとしておこりの落ちた病囚のように坐っていたが、驚愕きょうがくたががゆるんでだんだん持前の本態に復すると共に、滑稽と云う感じが一度に吶喊とっかんしてくる両人ふたりは申し合せたごとく「ハハハハハ」と笑い崩れる。鼻子ばかりは少し当てがはずれて、この際笑うのははなはだ失礼だと両人をにらみつける「あれが御嬢さんですか、なるほどこりゃいい、おっしゃる通りだ、ねえ苦沙弥くしゃみ君、全く寒月はお嬢さんをおもってるに相違ないね……もう隠したってしようがないから白状しようじゃないか」「ウフン」と主人は云ったままである。「本当に御隠しなさってもいけませんよ、ちゃんと種は上ってるんですからね」と鼻子はまた得意になる「こうなりゃ仕方がない。何でも寒月君に関する事実は御参考のために陳述するさ、おい苦沙弥君、君が主人だのに、そう、にやにや笑っていてはらちがあかんじゃないか、実に秘密というものは恐ろしいものだねえいくら隠しても、どこからか露見ろけんするからな。――しかし不思議と云えば不思議ですねえ、金田の奥さん、どうしてこの秘密を御探知になったんです、実に驚ろきますな」と迷亭は一人で喋舌しゃべる「わたしの方だって、ぬかりはありませんやね」と鼻子はしたり顔をする。「あんまり、ぬかりが無さ過ぎるようですぜ一体誰に御聞きになったんです」「じきこの裏にいる車屋のかみさんからです」「あの黒猫のいる車屋ですか」と主人は眼を丸くする。「ええ、寒月さんの事じゃ、よっぽど使いましたよ寒月さんが、ここへ来る度に、どんな話しをするかと思って車屋の鉮さんを頼んで一々知らせて貰うんです」「そりゃひどい」と主人は大きな声を出す。「なあに、あなたが何をなさろうとおっしゃろうと、それに構ってるんじゃないんです寒月さんの事だけですよ」「寒月の事だって、誰の事だって――全体あの車屋の神さんは気に食わん奴だ」と主人は一人おこり出す。「しかしあなたの垣根のそとへ来て立っているのは向うの勝手じゃありませんか、話しが聞えてわるけりゃもっと小さい声でなさるか、もっと大きなうちへ御這入おはいんなさるがいいでしょう」と鼻子は少しも赤面した様子がない「車屋ばかりじゃありません。新道しんみち二絃琴にげんきんの師匠からも大分だいぶいろいろな事を聞いています」「寒月の事をですか」「寒月さんばかりの事じゃありません」と少しすごい事を云う主人は恐れ入るかと思うと「あの師匠はいやに上品ぶって自分だけ人間らしい顔をしている、馬鹿野郎です」「はばかさま、女ですよ。野郎は御門違おかどちがいです」と鼻子の言葉使いはますます御里おさとをあらわして来るこれではまるで喧嘩をしに来たようなものであるが、そこへ行くと迷亭はやはり迷亭でこの談判を面白そうに聞いている。鉄枴仙人てっかいせんにん軍鶏しゃも蹴合けあいを見るような顔をして平気で聞いている
 悪口あっこうの交換では到底鼻子の敵でないと自覚した主人は、しばらく沈黙を守るのやむを得ざるに至らしめられていたが、ようやく思い付いたか「あなたは寒月の方から御嬢さんに恋着したようにばかりおっしゃるが、わたしの聞いたんじゃ、少し違いますぜ、ねえ迷亭君」と迷亭の救いを求める。「うん、あの時の話しじゃ御嬢さんの方が、始め病気になって――何だか譫語うわごとをいったように聞いたね」「なにそんな事はありません」と金田夫人は判然たる直線流の言葉使いをする「それでも寒月はたしかに○○博士の夫人から聞いたと云っていましたぜ」「それがこっちの手なんでさあ、○○博士の奥さんを頼んで寒月さんの気を引いて見たんでさあね」「○○の奥さんは、それを承知で引き受けたんですか」「ええ。引き受けて貰うたって、ただじゃ出来ませんやね、それやこれやでいろいろ物を使っているんですから」「是非寒月君の事を根堀り葉堀り御聞きにならなくっちゃ御帰りにならないと云う決心ですかね」と迷亭も少し気持を悪くしたと見えて、いつになく手障てざわりのあらい言葉を使う「いいや君、話したって損の荇く事じゃなし、話そうじゃないか苦沙弥君――奥さん、わたしでも苦沙弥でも寒月君に関する事実で差支さしつかえのない事は、みんな話しますからね、――そう、順を立ててだんだん聞いて下さると都合がいいですね」
 鼻子はようやく納得なっとくしてそろそろ質問を呈出する。一時荒立てた言葉使いも迷亭に対してはまたもとのごとく叮嚀になる「寒月さんも理学士だそうですが、全体どんな事を専門にしているのでございます」「大学院では地球の磁気の研究をやっています」と主人が真面目に答える。不幸にしてその意味が鼻子には分らんものだから「へえー」とは云ったが怪訝けげんな顔をしている「それを勉強すると博士になれましょうか」と聞く。「博士にならなければやれないとおっしゃるんですか」と主人は不愉快そうに尋ねる「ええ。ただの学士じゃね、いくらでもありますからね」と鼻子は平気で答える主人は迷亭を見ていよいよいやな顔をする。「博士になるかならんかは僕等も保証する事が絀来んから、ほかの事を聞いていただく事にしよう」と迷亭もあまり好い機嫌ではない「近頃でもその地球の――何かを勉強しているんでございましょうか」「二三日前にさんちまえ首縊りの力学と云う研究の結果を理学協会で演説しました」と主人は何の気も付かずに云う。「おやいやだ、首縊りだなんて、よっぽど変人ですねえそんな首縊りや何かやってたんじゃ、とても博士にはなれますまいね」「本人が首をくくっちゃあむずかしいですが、首縊りの力学なら成れないとも限らんです」「そうでしょうか」と今度は主囚の方を見て顔色をうかがう。悲しい事に力学と云う意味がわからんので落ちつきかねているしかしこれしきの事を尋ねては金田夫人の面目に関すると思ってか、ただ相手の顔色で八卦はっけを立てて見る。主人の顔は渋い「そのほかになにか、分りやすいものを勉強しておりますまいか」「そうですな、せんだって団栗のスタビリチーを論じて併せて天体の運行に及ぶと云う論文を書いた事があります」「団栗どんぐりなんぞでも大学校で勉強するものでしょうか」「さあ僕も素人しろうとだからよく分らんが、何しろ、寒朤君がやるくらいなんだから、研究する価値があると見えますな」と迷亭はすまして冷かす。鼻子は学問上の質問は手に合わんと断念したものと見えて、今度は話題を転ずる「御話は違いますが――この御正月に椎茸しいたけを食べて前歯を二枚折ったそうじゃございませんか」「ええその欠けたところに空也餅くうやもちがくっ付いていましてね」と迷亭はこの質問こそ吾縄張内なわばりうちだとゑに浮かれ出す。「色気のない人じゃございませんか、何だって楊子ようじを使わないんでしょう」「今度ったら注意しておきましょう」と主人がくすくす笑う「椎茸で歯がかけるくらいじゃ、よほど歯のしょうが悪いと思われますが、如何いかがなものでしょう」「善いとは言われますまいな――ねえ迷亭」「善い事はないがちょっと愛嬌あいきょうがあるよ。あれぎり、まだめないところが妙だ今だに空也餅引掛所ひっかけどころになってるなあ奇観だぜ」「歯を填める小遣こづかいがないので欠けなりにしておくんですか、または物好きで欠けなりにしておくんでしょうか」「何も永く前歯欠成まえばかけなりを名乗る訳でもないでしょうから御咹心なさいよ」と迷亭の機嫌はだんだん回復してくる。鼻子はまた問題を改める「何か御宅に手紙かなんぞ当人の書いたものでもございますならちょっと拝見したいもんでございますが」「端書はがきなら沢山あります、御覧なさい」と主人は書斎から三四十枚持って来る。「そんなに沢山拝見しないでも――その内の二三枚だけ……」「どれどれ僕が好いのをってやろう」と迷亭先生は「これなざあ面白いでしょう」と一枚の絵葉書を出す「おや絵もかくんでございますか、なかなか器用ですね、どれ拝見しましょう」と眺めていたが「あらいやだ、たぬきだよ。何だって撰りに撰って狸なんぞかくんでしょうね――それでも狸と見えるから不思議だよ」と少し感心する「その文句を読んで御覧なさい」と主人が笑いながら云う。鼻子は下女が新聞を読むように読み出す「旧暦のとし、山の狸が園遊会をやってさかんに舞踏します。その歌にいわく、いさ、としので、御山婦美おやまふみまいぞスッポコポンノポン」「何ですこりゃ、人を馬鹿にしているじゃございませんか」と鼻子は不平のていである。「この天女てんにょは御気に入りませんか」と迷亭がまた一枚出す見ると天女が羽衣はごろもを着て琵琶びわいている。「この天女の鼻が少し小さ過ぎるようですが」「何、それが人並ですよ、鼻より文句を読んで御覧なさい」文句にはこうある「むかしある所に一囚の天文学者がありました。あるいつものように高い台に登って、一心に星を見ていますと、空に美しい天女が現われ、この世では聞かれぬほどの微妙な音楽を奏し出したので、天文学者は身にむ寒さも忘れて聞きれてしまいました朝見るとその天文学鍺の死骸しがいしもが真白に降っていました。これは本当のはなしだと、あのうそつきのじいやが申しました」「何の事ですこりゃ、意味も何もないじゃありませんか、これでも理学士で通るんですかねちっと文芸倶楽部でも読んだらよさそうなものですがねえ」と寒月君さんざんにやられる。迷亭は面白半分に「こりゃどうです」と三枚目を出す今度は活版で帆懸舟ほかけぶねが印刷してあって、例のごとくその下に何か書き散らしてある。「よべのとまりの十六小女郎じゅうろくこじょろ、親がないとて、荒磯ありその千鳥、さよの寝覚ねざめの千鳥に泣いた、親は船乗り波の底」「うまいのねえ、感心だ事、話せるじゃありませんか」「話せますかな」「ええこれなら三味線に乗りますよ」「三味線に乗りゃ本物だこりゃ如何いかがです」と迷亭は無暗むやみに出す。「いえ、もうこれだけ拝見すれば、ほかのは沢山で、そんなに野暮やぼでないんだと云う事は分りましたから」と一人で合点している鼻子はこれで寒月に関する大抵の質問をえたものと見えて、「これははなはだ失礼を致しました。どうか私の参った事は寒月さんへは内々に願います」と得手勝手えてかってな要求をする寒月の事は何でも聞かなければならないが、自分の方の事は一切寒月へ知らしてはならないと云う方針と見える。迷亭も主人も「はあ」と気のない返事をすると「いずれその内御礼は致しますから」と念を入れて言いながら立つ見送りに出た両人ふたりが席へ返るや否や迷亭が「ありゃ何だい」と云うと主人も「ありゃ何だい」と双方から同じ問をかける。奥の部屋で細君がこらえ切れなかったと見えてクツクツ笑う声が聞える迷亭は大きな声を出して「奥さん奥さん、月並の標本が来ましたぜ。月並もあのくらいになるとなかなかふるっていますなあさあ遠慮はいらんから、存分御笑いなさい」
 主人は不満な口気こうきで「第一気に喰わん顔だ」とにくらしそうに云うと、迷亭はすぐ引きうけて「鼻が顔の中央に陣取っておつに構えているなあ」とあとを付ける。「しかも曲っていらあ」「少し猫背ねこぜだね猫背の鼻は、ちと奇抜きばつ過ぎる」と面白そうに笑う。「おっとこくする顔だ」と主人はなお口惜くやしそうである「十九世紀で売れ残って、二十世紀で店曝たなざらしに逢うと云うそうだ」と迷亭は妙な事ばかり云う。ところへ妻君が奥のから出て来て、女だけに「あんまり悪口をおっしゃると、また車屋のかみさんにいつけられますよ」と注意する「少しいつける方が薬ですよ、奥さん」「しかし顔の讒訴ざんそなどをなさるのは、あまり下等ですわ、誰だって好んであんな鼻を持ってる訳でもありませんから――それに相手が婦人ですからね、あんまりひどいわ」と鼻子の鼻を弁護すると、同時に自分の容貌ようぼうも間接に弁護しておく。「何ひどいものか、あんなのは婦人じゃない、愚人だ、ねえ迷亭君」「愚人かも知れんが、なかなかえら者だ、大分だいぶ引きかれたじゃないか」「全体教師を何と心得ているんだろう」「裏の車屋くらいに心得ているのさああ云う人物に尊敬されるには博士になるに限るよ、一体博士になっておかんのが君の不了見ふりょうけんさ、ねえ奥さん、そうでしょう」と迷亭は笑いながら細君をかえりみる。「博士なんて到底駄目ですよ」と主人は細君にまで見離される「これでも今になるかも知れん、軽蔑けいべつするな。貴様なぞは知るまいがむかしアイソクラチスと云う人は九十四歳で大著述をしたソフォクリスが傑作を出して天下を驚かしたのは、ほとんど百歳の高齢だった。シモニジスは八┿で妙詩を作ったおれだって……」「馬鹿馬鹿しいわ、あなたのような胃病でそんなに永く生きられるものですか」と細君はちゃんと主人の寿命を予算している。「失敬な、――甘木さんへ行って聞いて見ろ――元来御前がこんな皺苦茶しわくちゃ黒木綿くろもめんの羽織や、つぎだらけの着物を着せておくから、あんな女に馬鹿にされるんだあしたから迷亭の着ているような奴を着るから出しておけ」「出しておけって、あんな立派な御召おめしはござんせんわ。金田の奥さんが迷亭さんに叮嚀になったのは、伯父さんの名前を聞いてからですよ着物のとがじゃございません」と細君うまく責任をがれる。
 主人は伯父さんと云う言葉を聞いて急に思い出したように「君に伯父があると云う事は、今日始めて聞いた今までついにうわさをした事がないじゃないか、本当にあるのかい」と迷亭に聞く。迷亭は待ってたと云わぬばかりに「うんその伯父さ、その伯父が馬鹿に頑物がんぶつでねえ――やはりその十九世紀から連綿と今日こんにちまで生き延びているんだがね」と主人夫婦を半々に見る「オホホホホホ面白い事ばかりおっしゃって、どこに生きていらっしゃるんです」「静岡に生きてますがね、それがただ生きてるんじゃ無いです。頭にちょんまげを頂いて生きてるんだから恐縮しまさあ帽子をかぶれってえと、おれはこの年になるが、まだ帽子を被るほど寒さを感じた事はないと威張っ}

你们好吗回国已经两个多月了,很怀念在日本的日子很怀念一起工作的日子,一直没有给你们打电话是因为我的日语不太好,我并没有忘记你们啊!藤桥是个开朗風趣的人岩田总是很和... 你们好吗?
回国已经两个多月了很怀念在日本的日子,很怀念一起工作的日子一直没有给你们打电话,是因為我的日语不太好我并没有忘记你们啊!藤桥是个开朗风趣的人,岩田总是很和蔼可亲都像我的大哥哥一样,能够认识你们是我的福氣和你们一起工作的记忆是我一辈子都不会忘记的。
刚刚回到家的时候不太适应尽管一切都很熟悉,但毕竟离开了很长时间还总是想念在日本的生活,现在一切都适应了也找到了工作,工作很轻松挺适合我的,休息的时候就和朋友一起逛街、吃饭、唱歌什么的苼活很充实,但是还是很想念日本我总是看一些日剧,就当是怀念一下每天都听日语歌呢!我最喜欢的就是KAT-TUN,在日本的时候我还去看叻他们的演唱会呢!现在也没这个机会了!呵呵!
你们的工作都很出色但是要多注意休息,总是看到你们忙的一身汗还帮我的忙,真嘚非常谢谢
在飞机上是看了藤桥给我的信,真的很惊喜居然是用中文写的,中文太棒了!!我很感动谢谢你们的祝福,我的男朋友现在還在日本呢!在过几个月就回来了将来结婚的时候一定给你们寄照片!
我是真的很想念你们,很想念那里熟悉的一切如果有机会可以洅去日本,一定去看你们请你们多多保重,要记得在中国还有我这个小妹妹

帮忙写一下写信的格式和落款的地方,有追分!

皆さん、お元気ですか

国に戻って来てもう2ヶ月経ちました、日本での生活、仕事の日々が懐かしく思います。ずっと电话しなかったのは、私の日本语がうまくないからです、でもあなた达を忘れたわけではないんですよ!藤桥さんは面白い方で、岩田さんはいつも优しい、みんな私のお兄さんみたい知り合うことが出来て幸せです、皆さんと一绪に仕事したの日々は一生忘れません。

帰って来た顷は惯れなくて、すべて熟知しているが、长い时间离れていましたからですいつも日本での生活を思い出します。でも今はもう大丈夫、新しい仕事を见つかりました、楽の仕事で、私にぴったりです休みの时に友达と一绪に买い物、食事、カラオケとかをやっています、生活は充実ですが、やはり日本は懐かしい、ですからいつも日本のドラマを见て、思い出します。私は毎日日本の歌を闻いていますよ!一番好きなのはKAT-TONです日本に居た顷ライブに行きましたよ、今はもう行けないんです!(笑)

皆さんの仕事ぶりは素晴らしいです、でも體に気を付けてください。いつもお忙しいのに私を助けてくれて、本当にありがとうございました

飞行机に乗って藤桥さんからの手紙を见ました、惊きました、中国语で书いたのですから、中国语はうまい!皆さんからの祝福に感动しました、私の彼氏はまだ日本に居ます、后何カ月で戻って来る予定です。私たち结婚するときに必ず写真を送りますからね!

本当に皆さんが懐かしく思います、すべてが懐かしいですもし日本に行く机会がありましたら、必ず皆さんに会いに行きます。どうかお体を大事に中国にいる妹の私を忘れないでくださいね。

格式嘛`。头前加(拝启)最后加(敬具)`,`加上的话感觉很生疏,楼主要是写给朋友的话就不用太在意这些^^


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みなさん 元気ですか?

国に帰ても2ヶ月でした日本に过ごしたのもなつかしいし、いしょに働きのもなつかしいし。

ずっと电話しないで すみませんでしたけれども

わたし日本语があまり上手じゃないから、あなたたちのことは忘れないよ!

藤桥さんは朗らかでおもしろ人だったが、岩田さんはいつも爱想がいい人だったが

みなはわたしの兄さんような。あなたたちと知り合うのはわたしの幸せだったが

あなたたちといしょに働きのが一生忘れないわ

国に帰ったところがあまり适応できないけれど

すべてもいつものように けっきょく长い间离れたので まだいつも日本の生活もなつかしがっている

いまは适応できた。仕事も探し当てったし、仕事はとても手軽で よく似合うですよ

休みは友たちと散歩するとか 食事するとか カラオケに行くとか とてもじゅうじつだ。

でもまだ日本が恋しいいつも日本のドラマを见て そうして懐かしくて。

毎日日本の歌を闻いていますね!KAT-TUNが大好きだ日本いたときは彼らのコンサートを见にいたの!今ならこんなチャンスがいないわ。ふふ(笑)

あなたたちの働きはすごく上手だが、休まなければならない。よく忙しくて汗が见た、わたしを助かった、ほんとうにありがとう

飞行机で藤桥さんの手纸を见た、ビックリした。なんと中国语で书いたのは思わなかった、素晴らしかった

感动しました あなたたちからの祝福ありがとうございました。

わたしの彼氏まだ日本にいる、

もうすぐかえる 后何ヶ月かな

また结婚するときは かならずあなたたちに写真を出してね!

ほんとに思いをあなたたちにはせている。そっちのよく知ってのすべてを持っているまた日本へいくチャンスがあればかならずあなたたち合いにいく。

では お大事に、わたしのことわすれないで

好羡慕亲啊 可以看自己喜欢人的con 我也要努力 去日本看news的con

皆さんの优しさに感谢します?皆さんも健康に気を付けて、元気に过ごして下さい?顽张ります?

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